暇、だった。
暇で暇で暇で──。
詰まるところ、退屈だった。
静かな音楽が流れ、その音楽に身を任せて踊る男女。
それらを視界の端に映しつつ、キラは手に持っていたグラスを傾けた。
(……やっぱり来なければよかった)
胸中で溜め息をつき、キラはくいっとグラスの中身を一気にあおる。
「──……ぅ」
飲み下した直後に、小さくうめいた。
やはり少しずつ飲むべきだった──と、後悔するが後の祭り。
機嫌に付け加えて気分も悪くなる。
外に出ようかとも思ったが、出口付近には全く知らない人物らが固まっており、なんとなく近寄りがたい。
(大体、なんで僕が……。アスランはどっか行っちゃうし、知らない人ばっかだし)
自分を無理矢理ここへと連れて来た張本人は、会場に入って三十分ほどで姿が見えなくなってしまった。
誰か知り合いがいれば、キラとてこの場を少しは楽しめるだろう。
だが生憎、知り合いと呼べる人は一人も見当たらなかった。
「……うぁ」
新しいグラスをもらいに行こうかと、壁から勢いをつけて離れる。
それと同時に目眩を覚え、キラは口元を抑えて俯いた。
(……そう言えばお酒、苦手だったんだ)
今更ながら思い出したことに、我ながら呆れる。
だがこうなったのも全て幼馴染のせいなのだ――と考え、貸し一、と記憶に刻み付けておく。
――と。
「――どうした?」
聞き覚えのない声と自分を覆う影に気付き、キラは顔を上げた。
まず見えたのは――銀糸の髪。
「えっ……と……」
恐らく歳はそう変わらないだろう。
綺麗な銀の髪の次に、蒼い瞳に引き付けられた。
と、困ったように視線を漂わすキラの腕を、青年は急に掴んだ。
驚いて呆気に取られているキラに何も言わず、彼はそのまま進み続け、人を掻き分け内庭へと出る。
「あの……っ」
「なんだ」
「どうして、その……」
「気分が悪いんだろう? 顔色が良くない」
中庭のベンチに座らされ、彼はキラの手を離した。
そして自分の着ていた上着をキラに被せると、用は済んだとばかりにさっさと踵を返す。
「あ、ちょっ……っ、名前!」
何かを言って、彼を引き止めねば――と考えたキラは、そう叫んだ。
怪訝そうに彼は振り向き、聞き返す。
「名前?」
「教えて……もらえませんか?」
彼を見ていると見惚れてしまいそうで、キラは目のやり場に困りつつ言った。
しばしの沈黙の後、彼も視線を逸らしつつ口を開く。
「……イザーク。イザーク・ジュールだ。――お前は?」
「僕はキラです。キラ・ヤマト。――ありがとうございました、イザークさん」
にっこりと微笑み、感謝の言葉を述べる。
その返事はせずに、イザークと名乗った青年は再び会場へと姿を消した。
「だからそれは俺が……。本当に悪かったって、キラ!」
「もういいって言ってるじゃない、パーティーのは貸し一で許すって。だから早く教えてよ」
ストローに口をつけ、アイスティーを飲みながらキラは言った。
正面に座っているのは幼馴染のアスラン。
――先日のパーティーで散々呪った相手だ。
「貸し一で勘弁してあげるから、イザークさんの住所教えて?」
ね?と首を傾げ、上目遣いに言う。
だがいつものアスランなら間違いなく快諾してくれるこの技も、今回ばかりは何故か効力を発揮しない。
「駄目だ! 俺が返しに行くから、上着を――」
「僕が借りたんだから、僕が返すべきじゃないか! 何で住所、教えてくれないの? 知ってるって言ったのに!」
ぷくっと頬を膨らませ、キラはアスランを睨む。
それにアスランも言葉を詰まらせる。
パーティーの後、男物の上着を持っていたキラにアスランは当然の如く、詰め寄った。
隠すこともないと思ったので、キラはありのままを話したのだ。
そしてアスランに彼の住所を知ってるか、尋ねた。
しかし彼は、一応知っているけど――と言葉を濁し。
何度教えてくれといっても、代わりに上着を返してくるからと言われ、そこから話は常に平行線だ。
キラは自分で返しに行きたいのだから、当然のことなのだが。
「知ってるけど、何もわざわざキラが行くことはないだろ! 俺が行って来るからっ!」
「だーかーらー! 何でそこでアスランが出てくるわけ!? ってか大体、誰のせいで上着を借りることになったと思ってるの!? 君のせいでしょ、君の! いきなり人の家来て『今日パーティーなんだ』? 唐突にもほどがある!!」
不満を一気にぶちまけ、キラは椅子を蹴るようにして立ち上がった。
そしてアスランに下を出し、テラスから立ち去る。
残されたアスランはただ一人、パーティーにキラを連れて行ったことや一人にしたことを思い出し、自身を呪った。
(意地悪アスラン! 知ってるって言ったのに、何で教えてくれないの!?)
頭から湯気が立ち上らん勢いで、キラは公園のベンチに座っていた。
近くで売っているジュースでも買おうかと思ったが、先程アイスティーを飲んだばかりなのでやめておく。
「あーっ、もう! バカアスラン!!」
人気がないことを確かめ、キラは叫んだ。
――が。
「そう言った内容は、せめて人がいないところで叫べ」
背後――というよりも頭上から聞こえた声に、驚いてキラは身体を仰け反らせる。
日の光の影になり、顔の判別はつきにくかったが――間違いない。
「イザークさん!」
「……呼び捨てでいい。気持ち悪い」
「あ……、はい」
「敬語もいらん」
「……うん」
息をつきながら言う言葉に、キラは半ば呆然としながら頷いた。
捜し求めた人物――イザークが、そこにいる。
その事実、現実にキラは酷く驚いた。
「イザークは何でここに?」
「誰だって近所の散歩ぐらいするだろう」
「近所?」
「そうだが? というかそこだ、俺の家は」
そう言って指差された方向を見る。
――アスランの家から、十分もかからないであろう距離だった。
「アスラン……っ」
憎悪にも似た炎を煮えたぎらせ、キラはぐっと拳を握った。
そんなキラを疑問符を浮かべ、イザークが見る。
「お前、あいつの知り合いなんだろう? 何度か見た」
「あいつって……アスラン?」
「ああ」
「僕、アスランの幼馴染なんだ。両親と離れてプラントに来たから、アスランのお母さんによく面倒見てもらったりして……」
「……そうか」
イザークの返事の後、沈黙が落ちる。
キラはどうしようかと悩んだが、思いつく話題が――。
「……よく、見てたんだ」
「え?」
必死に思考をフル回転させていたキラに、イザークは独り言のように呟いた。
キラの隣に腰掛け、少し離れた位置にいる白い鳩に目をやりながら続ける。
「最初に見たのは二年か三年ぐらい前で……二週間に一回ぐらいは見てた」
「そうなの? 僕、全然気付かなかったよ」
「それはそうだろう。俺は車で通り過ぎていたんだからな。――かなり驚いた」
そこで一旦、言葉を区切る。
言おうかどうしようか悩んでいる様子で、しばし俯き――思い切ったように、彼は口を開いた。
「目を奪われたのは、お前が初めてだ。――キラ」
その、美しさに。
目を、心を奪われた。
初めて会ったときから恋焦がれ、だがその気持ちの名前がわからず苛立ち。
パーティーのあった日、キラと話した後にやっと気付いた。
これは――。
「お前が……好きなのかもしれない」
かもしれない、ではない。
間違いなく、この気持ちはきっと本物。
でも――それを認めて、彼女に拒絶された時に受ける痛みは計り知れないから、気付かない振りをする。
「……『かも』?」
眉を寄せ、キラが不服そうに尋ね返した。
そしてどう返したものかとイザークが困っていると、微笑を浮かべ――彼女は言った。
「僕はあなたが好きだよ。――パーティーで会った、その時から」
赤面するような言葉をさらりと告げ、キラはイザークを見た。
そして呆然としている彼を見、首を傾げる。
「イザークは? やっぱり『かも』?」
「……いや」
ふっと笑い、イザークはキラの頬に手を伸ばした。
壊れ物に触れるかのように彼女の頬を撫で、顎に手をやり上を向かせ――。
「――好きだ」
――軽く、口付けた。
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76000番を踏まれました、冴さまへの捧げものです。
クールなイザーク……。……なったか?(汗) ってか日記にも書いたけど、妙に手が早い……;
微妙なところで終わってるし;; よくよく考えたら舞踏会がパーティーにすき替わってるし……っ(滝汗/逃) ……見逃してくださいませ(笑)
もしかしたら後日談を書くかもしれません。
アスランは兄的な位置で、イザークと争いとか。
とにかく返品可ですので! いつも言ってる気がしますが!!(笑)
キリ番報告、ありがとうございました〜。